「これは心臓だ」
トマトを握りしめつつ、彼はそういった。
赤い果汁ポタポタと床を汚していく。
私は明日の朝食が失われたことだけがどうしょうもなく悲しかった。
「赤い血は流れる運命だ。今こそ始めるのだ」
彼が豪語する。私はゴホッと一回咳をする。
そろそろ覚めないかな、と。
ふくろうがなく。鳩もなく。朝か夜かそんなあいまいなことを曖昧なままに時は進む。
「人は消え行く。ならば何故生まれた」
世界がちぎれる。ビリビリと。
ああまたか。私は破れてできた穴に吸い込まれていく。
私は目を開ける。天井はくらい。笑い声が聞こえそうなほど。
「おやすみ」と私は言う。